理事長ご挨拶
歯科基礎医学会の持続可能な発展に向けて
一般社団法人 歯科基礎医学会
理事長 大島勇人
歯科基礎医学会は1959年に創立した歴史ある学会で、解剖学、生理学、生化学、薬理学、微生物学、病理学の異なる分野から構成されていることが大きな特徴です。異なる学問分野の研究者が同時期に同じ場所に集まる学術大会は、参加した研究者に大きな刺激を与え、研究の大きな進展や共同研究の活性化を促進してきました。桐野忠大初代理事長は「より優秀な、学問的に誇り高き研究の出現を望んで本会が結成され、各専門分野が例会的に会合し、その研究を披瀝し、互に知識の交流を図るようにしたい」と歯科基礎医学会雑誌1巻1号(1959)で述べています。事実、歯科基礎医学会は65年以上に渡り、オーラルバイオサイエンス研究の発展に大きく貢献し、さらに、若手研究者の登竜門として、多くの人材育成の場として機能してきました。私は、教員の研究力が教育を通して学生に研究マインドを醸成し、教育の中に研究のアイデアに繋がる疑問点が隠されていると考えております。したがって、学術大会の中で行われる部門別談話会を通して、各教育分野での情報共有や横の繋がりを活性化してきた点も本学会の大きな役割であると思います。
歴代理事長と理事会の強いリーダーシップと会員皆様のご支援で、本学会の機関誌Journal of Oral Biosciences(JOB誌)も大きく発展しました。木崎治俊編集委員長は、46巻1号(2004)から国際誌を目指し全面英文化に踏みきり、現在の誌名になりました。2009年より私が編集委員長を引き継ぎ、2012年よりエルゼビア社と連携した結果、オンライン・ジャーナル化、Emerging Sources Citation Index (ESCI)への収載、57巻1号(2015)からWeb of Scienceへの掲載を果たしました。2018年より網塚憲生編集委員長に引き継ぎ、61巻1号(2019)のコンテンツからPubMed掲載を果たし、さらに、バトンは美島健二編集委員長に引き継がれ、2023年にJOB誌はImpact Factor (IF)獲得(IF=2.4)を果たしました。2024年にはIF=2.6になり、Rank by Journal Impact FactorのDentistry, Oral Surgery & Medicine分野158誌中39位となりトップジャーナルQ1(トップ25%)の仲間入りを果たしました。この成果は、歯科基礎医学会の研究力の高さの証左であるととともに、多大なご負担を担って頂いた編集委員を始め、学会会員皆様に深くご理解・ご協力頂き、世代を超えて志が綿々と繋がった賜物と存じます。
私たちは、将来に向けて、学会を発展させて行く使命がありますが、今日における学会を取り巻く環境は厳しい状況にあります。2007年には評議員380名、その他の正会員が2,000名を超えておりましたが、2022年には代議員216名、その他の正会員1,400名余りに激減し、それに伴い学会の財政も厳しくなりました。原因は、各大学における基礎分野の定員削減とそれに伴う教員の負担増の問題もありますが、学会の法人化(2015年)に伴う仕組みの変更も影響していると考えます。その後、宇田川信之前理事長の強力なリーダーシップで、歯科基礎医学会は改革を推し進めました。新しい分野「臨床・再生医学」の立ち上げ、代議員と理事の選出について見直しを行い、代議員は310名、その他の正会員1315名(合計1,887名)(2024年9月30日)となり、V字回復の足掛かりができたと考えています。
他学会や臨床分野との連携等、従来の枠組みを打破して良い未来があるというビジョンを持てるかどうかが重要だと思います。これまで歯科基礎医学会が29大学歯学部・歯科大学の基礎分野の強い横の繋がりで発展したことを考えると、今一度29大学等が一丸となって、オーラルバイオサイエンスの発展のために必要なミッション(使命・役割・存在意義)、バリュー(価値観)、ビジョン(到達点)を考え、会員の皆様と共有することが重要であると考えます。今の私たちが研究者・教育者として自律する為に必要不可欠であった歯科基礎医学会の持続可能な発展のために、宇田川信之前理事長の志を引き継ぎ、理事会の強いリーダーシップの下、私は真剣にそして丁寧に学会の改革を進めていく覚悟です。皆様のご支援・ご鞭撻を心からお願い申し上げます。