若手研究者の育成

注目の歯科基礎医学研究者!第七弾!

日本大学松戸歯学部 生理学講座
専任講師 横山愛

研修医の時に人より何かプラスαになるものを自分の価値としたいと考え、大学院へ進むことを決めたのが私の基礎医学研究生活の始まりです。とはいうものの、初めは基礎系の中でも最も臨床系に近いと思われる病理学を専攻しました。学生時代に顕微鏡で赤血球を見た時に本当に血球の真ん中がくぼんでいるので色が抜けて見えたことに感動し、また細胞が並ぶ組織像が大好きでした。院生時代にアメリカのノースカロライナ大学へ留学をさせてもらい、そこで生化学的・分子生物学的な手法を学びました。病理学という学問は大好きだったのですが、大学院を卒業する時に医局には有給枠が無く、有給枠が空いているという理由のみで生理学へ移動しました。そこで、当研究室が柱としている「唾液腺」の研究に関してのテーマを教授からいくつか挙げて頂き、「唾液腺の再生および回復」をテーマとして選びました。その仕事が現在まで続いております。

唾液腺には再生能があり、軽度に傷害を与えると腺房細胞が委縮した組織像がみられますが、傷害を取り除くと組織像が元に戻ります。実際に自分の目でそれを確認し、唾液腺の再生と回復の研究にとても興味を持ちました。私は唾液腺の導管を結紮することで傷害を与え、結紮を取り除き回復する時に何が起こっているのかをマウスで探っています。

横山愛先生図1

他にアピールポイントと言えば、臨床も細々とですが続けていることころでしょうか。これまでに私の臨床生活を応援してくださる先生方のおかげで、日本臨床細胞学会の細胞診専門医と日本補綴学会の認定医を取らせて頂きました。当講座の教授は歯科医師である以上は臨床も重要と考えてくださり、これまでに大学病院で臨床に接する機会を与えて頂きました。そこで臨床の先生方とも「患者さんの〇〇を不思議に思う」など意見交換をして、臨床に近い(臨床の先生からも興味を持ってもらえるような)研究で何かできることはないかと日々考えております。

最後に、みなさんも感じていることと思いますが、基礎系分野はなかなか卒業したての若い人材から選ばれることが少ないかと思います。今後、基礎医学の面白さに気づき興味を持ってくれる若者が増え歯科基礎医学会がより活発な活気に溢れた学会となることをお祈り申し上げます。


徳島大学大学院 医歯薬学研究部 口腔分子病態学分野
准教授 常松貴明

この度はこのような執筆の機会を頂き、大変光栄に思っております。広報委員会の先生方、ご推薦いただきました先生方にこの場を借りて感謝申し上げます。私は口腔病理学を専門として病理診断や教育に携わるとともに、腫瘍を中心とした基礎研究に力を入れて研究を推進しております。本寄稿では、私のこれまでの経歴と現在の研究テーマについて紹介させて頂きます。

私は学部生時代、硬式テニスに明け暮れる毎日でしたが、ちょうど部活を引退した広島大学歯学部5年次の秋より高田隆先生(現 周南公立大学学長)のご厚意で口腔病理学研究室にて口腔がんの基礎研究を始める機会を頂きました。初めて研究に携わり、様々な研究手法を身につけるだけでも毎日とても刺激的でしたが、考えた仮説のようにはなかなか研究結果が出ず、困りながらも膨大なネガティブデータを出し続けていました。諦めかけた中、何気なく細胞を観察していると、ふと細胞の変化が気になり、もしかして?と実験を行ってみると、当初は考えてもいなかった現象を証明することができました。この時の興奮ですっかり基礎研究に魅了され、またあの興奮を何回でも味わいたいというのが、今も研究を続けている原動力になっています。

卒業後は口腔病理学研究室の大学院に進学し、高田隆先生、小川郁子先生の元で日本のトップクラスの外科病理学を学ぶとともに、博士課程取得後は現在の所属に移動し、石丸直澄先生(現 東京医科歯科大学口腔病理学分野教授)に免疫学、工藤保誠先生(現 徳島大学口腔生命科学分野教授)にタンパク質科学、常山幸一先生(徳島大学疾患病理学分野教授)に全身の病理学をご指導いただきました。このような研究背景から、自分の得意とする目には見えないタンパク質科学で、逆に目で見て疾患を形態学的に理解する病理組織学の疑問を解決したいと考え、現在の研究を推進しています。具体的には、以下のようなプロジェクトを行なっております。
1. がんの共食いの生物学的意義の解明:病理組織学的にがん組織で観察されるものの、その生物学的意義や分子機構の明らかとなっていない“がんの共食い”のがん病態における役割を病理組織学、生化学、免疫学を駆使して理解する。
2. がん種特異的に活性化するプロテオーム異常の同定:がん特殊化リボソームやがん種特異的なタンパク質複合体形成などの独自の観点から、がん種特異的な新たなプロテオームの異常を同定し、ゲノミクス主体のがんゲノム医療、分子病理学への新たな展開を目指す。

常松貴明先生図1

このような研究を通じて、歯科基礎医学、病理学の発展に貢献することが私の目標であると同時に、初心を忘れず自身がわくわくできるような研究を続けるとともに、私が魅了された研究の楽しさを学部生や大学院生と1人でも多く共有できるように取り組んでいきたいと考えております。


大阪大学大学院歯学研究科 微生物学講座
大学院生 小林桃子

「土壌細菌から病原細菌へ」

この度、歯科基礎医学会「注目の歯科基礎医学研究者!」への寄稿の機会をいただき、ありがとうございます。推薦してくださった先生方にこの場を借りて感謝を申し上げます。私は大阪大学 大学院歯学研究科 微生物学講座 大学院生の小林桃子です。川端重忠教授のご指導のもと、日々研究に取り組んでいます。これまでの研究生活と現在の研究テーマ、今後の意気込みについて簡単にご紹介させていただきます。

私の研究の出発点は土中に棲む放線菌です。歯科の分野では放線菌と聞くとActinomyces 属を思い浮かべるかと思いますが、当時私が扱っていたのは抗生物質をはじめとする多種多様な二次代謝産物を産生するStreptomyces 属放線菌です。学部と修士を合わせた3年半の研究期間中、放線菌の二次代謝を活性化させ、新奇抗生物質(従来とは異なる骨格の抗生物質)の探索に取り組んでいました。修了後は、博士課程には進学せず、研究職の常用型派遣サービス会社に就職し、現在の研究室への配属が病原細菌との出会いでした。微生物学講座では山口雅也准教授のグループで肺炎球菌感染症の病原機構の解明や創薬に向けた研究に携わってきました。研究遂行のために、免疫学やバイオインフォマティクス解析を新たに学び、様々なアプローチでわからない謎に対して解決することに面白さを感じ、博士課程への進学を決めました。

小林桃子先生図1

現在は” 高齢者で肺炎球菌感染症がなぜ重症化しやすいのか?” その分子機構を明らかにすることに取り組んでいます。肺炎球菌 (Streptococcus pneumoniae ) は健康な人の口や鼻からも分離される口腔レンサ球菌である一方で、肺炎や敗血症を引き起こす病原細菌です。肺炎球菌感染症は65歳以上の高齢者で重症化するリスクが高いことが報告されていますが、宿主の加齢による重症化機構についてはいまだ十分に明らかではありません。我々は肺炎球菌を感染させたマウスの感染肺のシングルセル解析の実験系を確立し、肺炎球菌感染後の若齢マウスと高齢マウスのシングルセル解析によってとある免疫細胞の応答が異なることを見出しました。現在は病態の重症化に寄与する免疫細胞の同定とその重症化への分子メカニズムの解析を進めていこうと考えています。

異なる研究室で培った経験を活かし、今後も柔軟な視点を持ち、謎を解明できる研究者になることが私の目標です。そして、歯科基礎医学分野の発展と感染症で苦しむ人々に還元できるように研究に精進して参ります。今後ともご指導をよろしくお願いいたします。

学会事務局

〒170-0003
東京都豊島区駒込1-43-9
(一財)口腔保健協会内
一般社団法人歯科基礎医学会

お問い合わせフォーム