微生物学分野

われわれの生活環境には無数の微生物が存在するため、ヒトは母体から無菌の状態で誕生すると直ちに感染するとともに絶えず感染の危険にさらされ、時には死に至ります。全国的に猛威をふるった麻疹の流行、毎年繰り返されるインフルエンザの流行などは、記憶に新しいことと思います。更に、過去の感染症と思われていた結核も感染者が爆発的に増加し、大きな社会問題となっています。一方、新型肺炎SARS、そしてO157の集団感染や、依然として拡大し続けるAIDS問題など絶えず新たな感染症が報告されています。抗生物質の発見以前は、感染による死は日常的なものでありました。しかし、微生物学の進歩により個々の病原微生物の性状が明らかとなり、治療法が確立され、その知識をもとに予防法や免疫学が生まれました。医療技術が進歩した現代においても感染症は人類にとって最も重要な問題ですが、医療は微生物との戦いにより進歩し、今後も進歩し続けるといえます。

現在最も重要な感染症の一つは、先に挙げた外来細菌による“外因感染症”ではなく、個人の体表、そして口腔から腸管に至る消化管に常在する細菌が原因となり発症する“内因感染症”であり高齢者では、直接の死因となります。口腔には、腸管に匹敵する種類の細菌が歯垢や口腔・咽頭粘膜に存在するため様々な疾患の原因となります。なかでも国民の多くが罹患しているう蝕や歯周病は、代表的な内因感染で、歯垢内の細菌が原因で発症します。近年、これらの口腔疾患が肺炎や動脈硬化などさまざまな全身疾患原因となることが報告され、広く注目されています。特に、高齢者の増加が著しい本邦においては、大きな問題と考えられ、これらの因果関係を解明するための研究や疫学調査が世界的規模で精力的に行われています。これらのことから、口腔微生物研究の重要性はより一層増すことが予想されます。

本学会における微生物分野の会員は、全国の歯学・医学系大学、薬学、獣医学、理学系大学や研究所に属し、微生物の形態・構造、生理、遺伝、感染免疫、そして各種医療技術開発において相互に連帯して研究・開発に取り組んでいます。毎年開催される歯科基礎医学会総会においては、その成果が発表され、より一層の飛躍をめざし活発な討論が行われております。また、微生物学の分野は、他分野との交流のみならず世界各国との交流が極めて活発な領域で、国際学会への参加や海外研究所との交流が盛んに行われ、その成果は本邦のみ成らず世界的にも貢献しております。これらの成果を元に、歯科医学教育、研究、臨床へ貢献するため、日夜、努力を続けております。

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