若手研究者の育成

注目の歯科基礎医学研究者!第三弾!

新潟大学大学院高度口腔機能教育研究センター
助教 佐藤友里恵

佐藤友里恵先生

この度は貴重な機会をいただきましてありがとうございます。この場をお借りして自己紹介と私の研究についてお話しさせていただきます。

私は新潟大学歯学部を卒業後、大学院は歯科麻酔学分野に進み、口腔解剖学分野の前田健康教授、大峡淳教授のご指導の下、末梢神経の再生のメカニズムに関する基礎研究を始めました。研究を始めて早々に生命現象の神秘に魅了され、大学院3年生の頃には研究者を志すようになりました。大学院終了後は当センターの助教のポストをいただき、口腔解剖のラボを使わせていただきながら研究を続けました。そんな中、ある日読んだ論文に感銘を受け、このラボでより深く神経科学を学びたいと思いWashington University in St. LouisのMilbrandt Jeffrey教授のラボへ留学しました。留学先では神経変性のメカニズムをテーマに研究を行い、軸索変性因子SARM1の活性化が神経変性疾患Charcot-Marie-Tooth病の病態進行に関与することを明らかにしました(Sato-Yamada et al., J Clin Invest. 2022)。帰国後は当センターに戻り、自身で研究費を獲得し研究プロジェクトを管理する、独立型研究者として研究を推進しています。

帰国後の研究テーマは、これまで行なってきた末梢神経の「変性」と「再生」の分子基盤の解明を目指す、2本柱のプロジェクトを進めています。主な研究手法はマウス・ラット遺伝学的手法、イメージング解析、生化学、分子生物学的手法を用いています。神経変性のプロジェクトでは、SARM1ノックアウトラットを用いて口腔顔面領域の疾患モデルを作成し、疾患の発症と進行におけるSARM1の関与を検討しています。神経再生のプロジェクトでは、神経周囲の細胞の動態変化に着目し、各細胞がどのように神経再生に寄与するのかを様々なトランスジェニックマウスを用いて解析しています。

現在、グラント申請書の作成から動物の飼育管理、実験までほぼ1人でこなしており、マンパワー不足にあえいでいます。学内外の共同研究により、質の高い研究成果をスピーディーに創出し、社会・医療へ還元したいと考えています。共同研究にご興味がありましたら、ぜひご連絡いただけると幸いです。


九州大学大学院歯学研究院OBT研究センター
准教授 安河内(川久保)友世

九州大学の安河内と申します。私は、2003年に九州大学歯学部を卒業後、歯学府(薬理学分野)に進学し、大学院修了後は、九州大学大学院歯学研究院、同薬学研究院、スウェーデン・カロリンスカ研究所、福岡大学薬学部にて、一貫して基礎研究を行ってきました。2020年3月より再び母校に戻り、PI准教授として活動する機会をいただきました。これまでに、国内外で様々な研究室を経験し、度々研究テーマが変わるなど少々大変な時期もありましたが、研究にも多様性が求められる時代となった今振り返ると、視野を広げる良い経験をさせていただいたことを大変有難く感じております。

最近では、生活習慣病、特に癌や糖・脂質代謝異常について、発症素因や病態解明のための研究を生化学的・分子生物学的に解析しております。中でも、長期戦で取り組んでいるのは、口腔科学や栄養学からアプローチする世代を超えた疾患素因研究です。これまでは、主に動物モデルを用いて、妊娠母体の栄養状態が世代を超えて仔の疾患素因を形成する分子メカニズムを追究してきました。研究開始当初は、病気の因果が同一個体に存在しないという、私にとって難易度の高い魅惑的な挑戦に、頭も体も汗だくでしたが、最近では、昨今のエピゲノム研究発展の煽りを受け、各種疾患のDevelopmental Originの分子基盤解明という目的達成に向けて一歩一歩近づいている実感があります。

安河内(川久保)友世先生

本原稿執筆中の現在(2024年3月)は、科研費(国際共同研究強化)のプロジェクトで、シンガポール国立大学に滞在し、シンガポールの出生コホートを活用した疫学研究に取り組んでおります。動物実験で得られた結果をヒトでも検証したい!という熱意だけで共同研究を持ちかけて異分野に飛び込みましたが、疫学の面白さや難しさに直面し、再び汗だくの毎日です(気候の面でも..)。今後は、自身の生物学的実験で実証した世代を超える疾患発症素因とその分子基盤をヒト出生コホートと融合させることで、より信憑性の高いDevelopmental Origin研究を遂行し、研究成果を社会に還元したいと思っております。

上記テーマの他にも、クエン酸回路の逸脱経路で産生されるイタコン酸の謎に迫る研究や、ヒストン修飾を担う新規核蛋白質の発掘など、各種研究テーマについても、国内外の共同研究者の先生方や、大学院生の力に支えられながら、主体的に進めております。近い将来、歯科基礎医学会会員の先生方と共同研究等ご縁があれば大変嬉しいです。今後ともよろしくお願い申し上げます。


大阪大学大学院歯学研究科口腔生理学講座
講師 片桐綾乃

私が大学院で、歯科心身医学の臨床と疼痛の基礎研究を選択した理由は、“原因のわからない痛みで苦しむ患者さんを助けたい”という思いです。

学部生であった九州歯科大学で、解剖学の後藤 哲哉先生(現 鹿児島大学)と生化学の自見 英治郎先生(現 九州大学)の導きにより、基礎研究の重要性を知りました。その後、研修医として目にした臨床の現実は、歯科でも医科でも受け入れ先が無く、苦悶する慢性疼痛の患者さんの多さでした。このような患者さんに対し、信念とエビデンスを持って治療を行う豊福 明先生(東京医科歯科大学歯科心身医学分野)、そして、疼痛研究の鬼である岩田 幸一先生(日本大学生理学講座)に師事した大学院時代に、“医療とは何かを自問する能力”と“研究者・大学教員のあるべき姿”を叩き込まれ、今の私の礎となっています。

片桐綾乃先生

学位研究では神経障害性疼痛について[Katagiri et al. 2012]、また、留学先のミネソタ大学ではProf. Bereiterと岡本 圭一郎先生(現 新潟大学)の指導のもと、顎関節痛や眼痛について[Katagiri et al. 2013, 2014, 2015]、疼痛発症機序の一端を解明してきました。さらに、Bereiterラボで行っていた眼痛研究が坪田 一男先生(前 慶応大学眼科教授)の目に留まり、共同研究へと発展したことは、一つ一つの研究を確実に論文発表することが、研究者同士のつながりに大切であることを学んだ良い経験となりました[Katagiri et al. 2022, 2023]。

基礎系の教員になってから今日まで、大学院生の学位研究指導を主軸とし、研究の幅を広げています[Saito et al. 2017; Mikuzuki et al. 2017; Sugawara et al. 2017; Okada et al. 2019, 2019, 2019, 2021; Kishimoto et al. 2022]。現在所属する大阪大学口腔生理学講座では、睡眠と顎運動研究に造詣の深い加藤 隆史教授のもと、睡眠時無呼吸モデル[右上段図]、また、離乳直前の咀嚼能力獲得期に限定した睡眠障害や育児放棄モデルを用い[Katagiri et al. 2024]、疼痛と睡眠・咀嚼の相互連関の機序解明に挑んでいます。この睡眠障害や乳幼児期ストレスに起因する口腔顔面痛は、臨床の場では直接的な因果関係を見出すことが困難であり、“原因のわからない痛み”と認定されるケースが多いと考えられます。研究の積み重ね、そして指導者や大学院生との出会いにより、臨床研修医の時に決意した研究内容に、今こうして着手できていることは、研究者・大学教員として幸せなことであると思います。同時に、次世代の歯科医療を担う大学院生の学位研究指導を引き受ける立場として、その責任に気が引き締まる思いで、日々の研究に邁進しています。


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