受賞者の声

第18回(平成30(2018)年度)歯科基礎医学会ライオン学術賞 受賞者

豊田博紀先生

大脳皮質における情報処理機構
豊田 博紀 先生
大阪大学大学院歯学研究科口腔生理学教室

この度はライオン学術賞を賜ることができ、大変光栄に存じます。歯科基礎医学会の役員の先生方および本賞の選考委員の先生方に深く感謝致します。

私はこれまで、大脳皮質における情報処理機構を明らかにする研究に取り組んできました。大脳皮質は明確な機能局在を示し、領野特異的な脳機能を発現していますが、機能カラムを構成する局所回路の動作機構が、領野を問わず普遍的であるか否かについては長年不明でした。我々はラットの体性感覚野バレル皮質と島皮質味覚野という二つのシステムにおいて、機能カラム内およびカラム間の局所神経回路の動作機構が異なる可能性を明らかにしました。また、大脳皮質においてGABA(B)受容体は、興奮性および抑制性ニューロンのシナプス前終末・後膜・外領域の細胞膜に存在していますが、機能カラム間での同期化・脱同期化にどのように影響を与えるかは不明でした。我々は、隣接するカラム間の錐体細胞間の同期化・脱同期化に、GABA(B)受容体を介するシナプス前抑制が重要な役割を果たしていることを明らかしました。これらの結果は、機能カラム間での同期化・脱同期化機構の根源的知見を提供するものであると考えています。

統合概念の形成、短期記憶情報の再現、情動などの高次脳機能は、脳の異なる領域間の機能協関の結果生じると考えられていますが、どのような神経機構により機能協関が生じるかについては、不明な点が多く残されています。我々は光学的膜電位計測法を用いて、島皮質味覚野とその尾側に隣接する島皮質自律機能関連領野の神経活動が、カプサイシンによりシータリズムで同期化することを初めて可視化して示しました。さらに、島皮質味覚野とその尾側に隣接する島皮質胃腸自律領野の神経活動が、内因性カンナビノイドであるアナンダミドの投与によりシータリズムで同期化することを示しました。島皮質で観察されたこうした神経ネットワーク活動は、味覚認知により惹起される摂食行動の制御に重要な役割を果たしているものと考えております。

これらの成果は、感覚情報処理および高次脳機能発現を担う大脳皮質の動作原理を理解する上で非常に重要な知見であると考えられます。現在、脳虚血や慢性疼痛時などの病態時における神経メカニズムを解明し、新たな治療法の開発に繋げることを目指して研究を行っております。これまで研究の遂行に多大なるご協力を頂きました教室員の皆様や共同研究者の先生方に心よりお礼申し上げます。


兼松隆先生

肥満を制御する新たな分子メカニズムの解明
兼松 隆 先生
広島大学大学院医歯薬保健学研究科細胞分子薬理学

肥満は、メタボリックシンドロームの誘因となり、動脈硬化性疾患などの慢性炎症の惹起や病態の増悪に関わる。現在、肥満予防を目的として、食欲や脂肪蓄積を制御するための基礎医学研究が進められているが、未だ多くが謎である。我々は、PLC-related catalytically inactive protein (PRIP)の遺伝子欠損(Prip-KO)マウスを作製し、このマウスが過食であり血中インスリン濃度は高いが痩せた表現型を示すことを見出した。そこで、この表現型の分子機構を解明するために、PRIPを介した脂肪代謝や生体エネルギー代謝の調節機構の解明研究を行った。

まずPrip-KOマウスの膵β細胞が、インスリン分泌過剰を示す分子基盤を明らかにした。しかしながら、Prip-KOマウスはインスリン抵抗性の獲得に対して防護的であることから、PRIPの欠失は糖尿病発症に対抗できると結論づけた。次に、白色脂肪細胞におけるPRIPが仲介する細胞内シグナル伝達機構を解析して、PRIPが脂肪分解に関わる分子の脱リン酸化を調節して脂肪分解を制御するという分子基盤を明らかにした。さらに、PRIPの欠失は、褐色脂肪細胞における非ふるえ熱産生系を活性化して恒常的に生体エネルギー代謝の亢進を起こすこと、また長期寒冷刺激環境下でPrip-KOマウスを飼育すると非ふるえ熱代謝系の亢進が起きることを明らかにした。

我々は、これらの研究成果を通して、PRIPが白色脂肪細胞における脂肪分解と褐色脂肪細胞における非ふるえ熱代謝系を調節するという新しい分子基盤を明らかにした。今後は、PRIPを介した脂肪分解の脱リン酸化調節機構を創薬標的として、脂肪分解と生体エネルギー代謝を活性化する抗肥満薬の開発を目指した研究を推進していく。


第30回(平成30(2018)年度)歯科基礎医学会学会奨励賞 受賞者

浅野智志先生

Suppression of cell migration by phosphoilpase C-related catalytically inactive protein-dependent modulation of PI3K signalling.
浅野 智志 先生
広島大学大学院医歯薬保健学研究科細胞分子薬理学

この度は第30回歯科基礎医学会 学会奨励賞を賜りましたことを大変光栄に存じます。これまでご指導頂いた先生方、共同研究者の先生方、及び歯科基礎医学会の先生方に心より御礼申し上げます。

私の研究経歴は、若林健之先生の門をたたいた所から始まります。そこで骨格筋のアクトミオシン系が高度に規則的に整列するサルコメア構造に魅了され、それ以来、細胞骨格、モータータンパク質の研究に携わってまいりました。研究室を出てからは黒田正明先生の研究室を経て、細谷浩史先生の下で細胞生物学を学び、研究テーマが筋肉から、非筋細胞のアクトミオシン系が関わる細胞移動や細胞質分裂などの細胞現象へと変わりました。しかし興味の根幹は変わっておりません。学位取得後は、スフィンゴ脂質を専門とする岡崎俊郎先生の下でポスドク研究員として、脂質の制御する細胞移動の研究に携わり、その後、脂質と細胞骨格の研究を別の角度から学びたいと思い、現在の兼松隆先生の研究室にポスドクとして受け入れていただきました。細胞生物学を研究の基盤とする私にとって歯学の世界は縁遠いものだと思っておりましたが、この研究室では、歯学だから生物学だからといった枠組みに捕らわれず、自由な発想で研究を進めて良いと言っていただき、居心地の良さから気づけば7年以上も在籍し続けておりました。奨励賞を頂いた研究論文はこのような環境の中だからこそ生まれた研究成果だと思っており、感謝しております。

本研究は、癌の転移抑制に関わる新たな分子の発見と、その機能メカニズムを示したものです。我々の研究グループは、この新規分子が、癌の増悪化の原因の1つに挙げられるホスファチジルイノシトール-4,5-二リン酸(PIP2)/ホスファチジルイノシトール-3,4,5-三リン酸(PIP3)シグナルを抑制することを突き止めました。本研究は、乳癌細胞を用いて解析をしておりますが、PIP2/PIP3シグナルは多くの癌細胞で活性化状態にあることから、この分子が口腔癌細胞の転移にも関わっていることが期待できます。今後は、このような新規分子によるPIP2/PIP3シグナルの制御機構を利用した新たな転移抑制薬の開発を目指して研究を進めていく所存です。


[6]-gingerol and [6]-shogaol,active ingredients of the traditional Japanese medicine hangeshashinto,relief oral ulcerative mucositis -induced pain via action on Na+ channels.
人見 涼露 先生
九州歯科大学健康増進学講座生理学分野

この度は第30回歯科基礎医学会奨励賞(生理学部門)を賜りましたこと、厚く御礼申し上げます。

本研究に用いた漢方薬の半夏瀉心湯は、がん治療の副作用として発症する広範囲で激痛を伴う口内炎に対する有効性が評価され、口内炎に苦しむ多くの患者に処方されています。本論文では、この半夏瀉心湯の鎮痛メカニズムについて、口内炎モデル動物を用いて解析しました。その結果、半夏瀉心湯を構成する7つの生薬のうち、乾姜という生姜の成分ショーガオールとジンゲロールが、疼痛に関与する電位依存性ナトリウムチャネルを介して鎮痛効果を発揮することが明らかになりました。ショーガオールやジンゲロールは非常に浸透性が悪いのですが、半夏瀉心湯に含まれる浸透性を増強させるニンジン(人参)生薬によって口内炎部でのみその効果を発揮することも分かりました。つまり、うがい薬として使用することの多い半夏瀉心湯の効果は、口腔内全体に広がるものの健常粘膜には作用せず口内炎部のみで鎮痛効果を発揮するという理想的な薬物であることが示されました。半夏瀉心湯を構成する様々な生薬はそれぞれの役割を持ち、お互い補い合って働いていることが分かり、漢方薬の奥深さを目の当たりにしました。

半夏瀉心湯には鎮痛効果以外にも、抗菌、抗炎症、抗酸化効果に加えて創傷治癒促進効果も持つことが最近明らかになっています。さらなる研究により、半夏瀉心湯がより多くの患者の疼痛緩和に役立つことを願います。

最後に、本研究を遂行するにあたり、九州歯科大学生理学分野の小野教授をはじめ、当分野のスタッフおよび大学院生の皆様、株式会社ツムラの皆様には多大なるご支援をいただきました。心より感謝申し上げます。


田中志典 先生

Oral CD103-CD11b+ classical dendritic cells present sublingual antigen and induce Foxp3+ regulatory T cells in draining lvmph nodes.
田中 志典  先生
ペンシルベニア大学医学部博士研究員

この度は歯科基礎医学会奨励賞を賜り、大変光栄に存じます。本研究を指導してくださった東北大学大学院歯学研究科菅原俊二教授、福本敏教授をはじめ、教室員の先生方に深く感謝申し上げます。私は口腔領域の免疫システムに興味を持って研究しており、現在は米国ペンシルバニア大学で博士研究員をしています。本研究では花粉症などアレルギー疾患の根治療法として注目されている舌下免疫療法のメカニズム解明に取り組みました。口腔粘膜は常在菌や食物由来の外来抗原に常にさらされていますが、これらに対するアレルギーや炎症反応は通常起きません。舌下免疫療法はこの現象を利用して考案されたアレルギーの治療法であり、花粉などの抗原を舌下粘膜から吸収させ、全身に免疫寛容を誘導し症状の改善を図ります。抗ヒスタミン薬などによる対症療法と異なり、体質を改善することによる根治療法ですが、その詳細なメカニズムは分かっていませんでした。一般に、抗原に対する免疫寛容の成立には制御性T細胞の誘導が重要です。制御性T細胞は免疫反応の抑制を司るT細胞です。そこで、マウス口腔粘膜の抗原提示細胞について詳細な解析を行ったところ、口腔粘膜の樹状細胞がTGF-βおよびレチノイン酸依存性に制御性T細胞を誘導する能力を有することが分かりました。さらに、口腔粘膜の樹状細胞が舌下投与された抗原を顎下リンパ節に運搬し、そこで抗原特異的制御性T細胞を誘導することも明らかとなりました。これまで、舌下免疫療法は花粉症などのアレルギー性鼻炎や喘息に有効であることが示されていました。しかし、舌下免疫療法により抗原特異的制御性T細胞が誘導されるのであれば、他のアレルギー疾患の抑制にも有効である可能性があります。この点について検討したところ、舌下免疫療法は遅延型アレルギーの抑制にも有効であることが示されました。さらに、舌下免疫療法を施したマウスの顎下リンパ節から制御性T細胞を単離し、舌下免疫療法を行っていない別のマウスに移入したところ、そのマウスでも遅延型アレルギーの発症が抑制されることが分かりました。これらの実験により、舌下免疫療法によって顎下リンパ節に誘導された制御性T細胞が実際にアレルギーを抑制する機能をもつことが証明されました。本研究成果は、舌下免疫療法の適応拡大や、治療効果を高める方法の開発につながることが期待されます。


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