受賞者の声

第33回(令和3(2021)年度)歯科基礎医学会学会奨励賞 受賞者

大野雄太先生

Arginase 1 is involved in lacrimal hyposecretion in male NOD mice, a model of Sjögren's syndrome, regardless of dacryoadenitis status.
大野 雄太 先生
朝日大学歯学部歯科薬理学分野

このたびは名誉ある歯科基礎医学会学会奨励賞を賜り、大変光栄に思います。

私の基礎研究のスタートは薬学部です。岐阜薬科大学の学部生時に研究室配属され、網膜に関する基礎研究を行いました。大学卒業後は岐阜大学医学部附属病院薬剤部にて薬剤師業務と並行して、薬物血中濃度モニタリングの臨床研究を行っておりました。さらに獨協医科大学と千葉大学医学部に出向してトランスポーターの基礎研究に従事しました。これらの背景を元に、朝日大学歯学部に赴任後は唾液腺や涙腺といった外分泌腺の研究を開始しました。

今回の受賞対象本論文は、シェーグレン症候群における外分泌機能低下の原因を新たな視点から探索したものです。シェーグレン症候群は、これまで主に炎症の視点から研究されていました。しかし、根本的治療法は確立されておらず、わが国では難病に指定されています。そこで私はこれまでの視点を変えて炎症以外の因子に着目し、シェーグレン症候群モデル動物(雄性NODマウス)の涙腺を用いて外分泌能低下機序の解明に取り組みました。涙液分泌低下・涙腺炎の発症前後の涙腺を用いて網羅的遺伝子発現解析(RNA-seq)を行いました。その結果、多くの炎症性の遺伝子が発症後に上昇したのに対し、4つの遺伝子のみが発症後に低下していることを発見しました。この4つの中から、非炎症性の因子として代謝酵素であるアルギナーゼ1に着目しました。さらに、NODマウスにおいて自然免疫に関わる遺伝子をノックアウトしたマウスは涙腺炎が大幅に抑制されているにも関わらず、涙腺のアルギナーゼ1発現量は低く、また涙液分泌も低下したままでした。さらに、涙液分泌が正常なマウスにアルギナーゼ1阻害薬を投与すると涙液分泌が低下していました。よって、非炎症性因子であるアルギナーゼ1の低下が、涙腺炎の有無に関わらず、雄性NODマウスの涙液分泌機能低下を引き起こすと結論付けました。また最後の阻害薬を用いた実験で、同時に唾液分泌もやや低下したことから、アルギナーゼ1が唾液分泌にも関与すると考えております。
現在はこのアルギナーゼ1がどのような機序で涙液・唾液分泌に働くのかについて研究を進めているところです。本研究を強力に推し進め、シェーグレン症候群の外分泌障害の新たな治療薬の開発に繋げていきたいと考えています。

最後に、本研究を遂行するにあたりご指導くださいました佐藤慶太郎先生、設楽彰子先生、引頭毅先生、柏俣正典先生に感謝申し上げます。また、歯科基礎医学会学術大会で優しく教えて下さいました全ての先生方に心より感謝を申し上げます。


平山悟先生

Glycine significantly enhances bacterial membrane vesicle production: a powerful approach for isolation of LPS-reduced membrane vesicles of probiotic Escherichia coli
平山 悟 先生
新潟大学大学院医歯学総合研究科 微生物感染症学分野

この度は第33回 歯科基礎医学会 学会奨励賞を賜り、大変光栄に感じております。

私は微生物を対象にした研究を続けてきましたが、元々は食品や農学の分野の出身であり、乳酸菌や酵母をはじめ発酵に関与する微生物を扱っていました。その後、国立感染症研究所に勤め、歯周病原細菌のような口腔細菌や病原微生物を扱うようになりました。現在は、口腔にも関連のある肺炎球菌を中心に研究を行っております。

国立感染症研究所で行っていた研究の一つが、メンブレンベシクル(以下ベシクル)と呼ばれる細菌の膜小胞を対象にしたものでした。グラム陰性菌・陽性菌に関わらず、細菌は数十から数百ナノメートルのベシクルを細胞外に放出します。ベシクルは細菌の細胞膜に由来する脂質や膜タンパク質、リポ多糖などから構成され、内部には核酸や酵素、シグナル分子や毒素などを含んでいます。細菌細胞由来の様々な物質が含まれていることから、新たなワクチン抗原への応用などが期待されています。

ベシクルの産生量は細菌の種や株によって様々で、収量が少ないとその後の研究や応用を進める上での障壁となります。本研究では、大腸菌の培養時にグリシンを添加することによって、ベシクルの収量を最大で70倍に増加できることを見出しました。大腸菌は、今後の応用性を見据えて、プロバイオティクスとして用いられている株を使用しました。グリシンによって誘導した大腸菌のベシクルには、タンパク質組成の変化や、リポ多糖の活性の減少が認められました。それにもかかわらず、サイトカインの誘導や抗体産生のような免疫誘導能、およびアジュバント活性といった機能性をグリシン誘導ベシクルは有しており、それらが非誘導ベシクルと同等であることを示しました。後に、このアジュバント活性を利用して、歯周病原細菌のベシクルとともに大腸菌のベシクルをマウスに併用接種し、歯周病原細菌に対する抗体産生を誘導することにも成功しています。細菌のベシクルは様々な分野で応用できる可能性があり、グリシンによる細菌ベシクル誘導法は、その可能性を広げるものになると考えています。

国立感染症研究所の中尾龍馬先生には、本研究で大変お世話になりました。また、学会奨励賞の受賞に向けて後押ししてくださいました新潟大学の寺尾豊先生や,土門久哲先生をはじめ、ご協力いただきました先生方に心より御礼申し上げます。


前川知樹先生

Erythromycin inhibits neutrophilic inflammation and mucosal disease by upregulating DEL-1
前川 知樹 先生
新潟大学大学院医歯学総合研究科高度口腔機能教育研究センター

-DEL-1を介したエリスロマイシンの抗炎症メカニズム解明-と題し,歯科基礎医学会の学会奨励賞を受賞いたしました新潟大学大学院 医歯学総合研究科 高度口腔機能教育研究センターの前川知樹と申します。受賞課題となりましたDEL-1ですが,生体内において多機能をもつ分子です。

私が米国ペンシルベニア大学に留学中であった2014年頃から開始した研究でした。当時は,DEL-1がもつ骨吸収抑制と好中球の過度な遊走を制御する機能に着目しており,DEL-1の効果をマウス・サルを用いたモデルにて解明してきました(Maekawa T, Nat Commun 2015, Shin J, Maekawa T, Sci Transl Med, 2015)。

2015年に日本に戻り,同大学病院の歯周病診療室にて歯周病治療をしていた際にエリスロマイシン(実際の治療はアジスロマイシンでしたが)を処方すると,次の受診時に強い抗炎症効果と歯肉を引き締める効果があることに気付きました。色々と文献を検索してもその効果に直結する報告はありませんでした。その頃の私は,同大学院微生物感染症学分野(寺尾 豊 教授主催)での研究も行っておりまして,肺炎の研究にも取り組んでいました。その際に慢性閉塞性肺疾患(COPD)において抗炎症作用があるマクロライド系抗菌薬が頻用されていることがわかりました。そこで私は,歯周炎と肺炎が同じヒトの粘膜疾患であること,マクロライドおよびDEL-1に共通して炎症を抑制する機能があることに着目しました。実際にマクロライドを投与してみると歯肉と肺でDEL-1が上昇することを発見し,誘導されたDEL-1が歯周炎と肺炎を抑制することをマウス肺および歯周炎疾患モデルで確認しました。興味深いことにこれらエリスロマイシンによる抑制効果は,DEL-1欠損マウスでは起きなかったことから,エリスロマイシンによる抗炎症および骨吸収抑制作用はDEL-1依存的であることが明らかとなりました。さらに,DEL-1産生細胞を用いた実験によりエリスロマイシンのDEL-1誘導経路を見出すことができました。これにより,DEL-1を直接投与することなくエリスロマイシンの投与で誘導が可能になったわけです。私たちは並行してDEL-1骨再生への効果を検証しました。するとDEL-1欠損マウスでは骨の再生が認めらなかったため,新しくDEL-1の骨再生の効果を見出すことができました。受賞論文の成果から,マクロライド系抗菌薬によるDEL-1誘導による骨吸収抑制・好中球抑制・炎症寛解促進および骨再生や肺の組織再生が可能な創薬の道筋が見えてきたところです。これまで行ってきたDEL-1に関する基礎研究と実際の臨床での知見を結びつけたことからスタートした研究だったと考えています。


第21回(令和3(2021)年度)歯科基礎医学会ライオン学術賞 受賞者

依田浩子先生

細胞内外環境による硬組織形成細胞の分化誘導機構の解明
依田 浩子 先生
新潟大学大学院医歯学総合研究科 硬組織形態学分野

この度は名誉あるライオン学術賞を賜り、大変光栄に存じます。歯科基礎医学会 井上富雄理事長、選考委員の先生方ならびに学会関係者の皆様に厚く御礼申し上げます。

私は大学卒業後、小児歯科臨床に従事しておりましたが、日常臨床を通して歯の発育や萌出、それらの異常をきたすメカニズムに興味を持ち、口腔病理学分野の朔 敬先生のご指導の下で基礎研究を開始しました。臨床、教育、研究と病理診断業務の同時進行でとても目まぐるしい毎日でしたが、ひとつずつ真摯に向き合い、着実に結果を積み重ねてきたことが、私の研究者としての基盤となっていると改めて実感しています。7編の論文をまとめた総説 (Pathogenetic background for disturbed tooth eruption) により学位を取得後、アメリカNIDCRのYoshihiko Yamada先生のラボに留学する機会に恵まれたことも、研究マインドが刺激される貴重なきっかけとなりました。

研究内容は、細胞外および細胞内環境と細胞分化との関連性に焦点を当てて、歯を主体とする硬組織形成細胞の分化誘導機構の解明を目的に研究を進めてきました。「細胞外環境」については、主要な細胞外基質であるプロテオグリカンに着目し、へパラン硫酸プロテオグリカン、コンドロイチン硫酸プロテオグリカンの機能について、それらの遺伝子改変マウスを用いて解析してきました。その結果、歯や頭蓋顔面の形態形成にプロテオグリカンが深く関与し、それらの発現異常により形態異常や骨形成不全症などの病態を呈することを明らかにしました。
「細胞内環境」については、細胞内エネルギー代謝の主軸である糖代謝について、その調節機構や代謝異常と歯、骨、軟骨形成との関連性について、グルコースの取り込み調節機構、グリコーゲン代謝、オートファジー調節と細胞動態などに焦点を当てて研究を進めています。特に主体的に解析している歯に関しては、エナメル質形成過程でエナメル上皮細胞の糖代謝様式が時期特異的に厳密に制御されていることを見出し、その異常によりエナメル質形成不全が生じることを示しました。今後はそれら細胞内外環境の影響を統合的に理解し、硬組織疾患の病態解明と予防、硬組織再生医療への応用までを視野に入れて研究を進めていきたいと考えています。

最後になりますが、研究者としての基礎を親身かつ厳しくご指導くださった恩師の朔 敬先生、研究遂行に多大なるご協力をいただいた当分野の大島勇人先生および教室員の皆様、共同研究者の先生方に心より感謝申し上げます。今後は歯科基礎医学分野の若手研究者の育成にも貢献できるよう、更なる努力を重ねてまいる所存です。


篠田雅路先生

口腔顔面痛メカニズムの解明
篠田 雅路 先生
日本大学歯学部生理学講座

この度は、第21回歯科基礎医学会ライオン学術賞を賜り、大変光栄に存じます。ライオン株式会社様および歯科基礎医学会井上富雄理事長をはじめ、関連する皆様には心より感謝申し上げます。

大学院に入学した当時、指導教授であった名古屋大学大学院医学系研究科機能形態学講座の杉浦康夫先生に、「みんな歯が痛くて歯医者に行くのに、歯医者が“痛み”を知らなくてどうするんだ。頑張って“痛み”を研究しなさい」と言われたのが、私が“痛み”の基礎研究を始めたきっかけでした。それ以来、私は一貫して“痛み”をテーマとして研究を続けてきました。大学院修了後は同講座助手のポストをいただき、そのまま“痛み”の基礎研究を続けることになりました。その後、疼痛研究の大御所であるUniversity of PittsburghのProf. Gebhartのラボへ留学する機会を得て、渡米しました。そして、3年3カ月のアメリカ生活ののち、縁あって日本大学歯学部生理学講座に赴任し、現在に至ります。

日本大学歯学部赴任後は、特に「口腔顔面痛」にターゲットを絞って研究しています。歯科医師は、歯痛や顎関節痛といった「口腔顔面痛」を毎日治療していると言っても過言ではありません。多くの口腔顔面痛に対しては消炎鎮痛薬が奏功しますが、しばしばコントロールが難しい口腔顔面痛に遭遇します。私は、このような難治性口腔顔面痛に対する新規治療法開発の基盤となる発症メカニズムの解明に向けて研究を進めています。2011年には顎口腔顔面領域に発症する異所性異常疼痛発症に対するNerve growth factorの役割を解明し、第24回歯科基礎医学会賞を受賞しました。最近では、三叉神経節のサテライト細胞やマクロファージがさまざまな液性因子を介して口腔顔面領域に投射する侵害受容ニューロンの興奮性を調節していることや、舌痛症に対するArteminの関与や舌癌性疼痛に対するEndothelinの役割を解明しました。

近年、Top journalに掲載されるような研究をするためには、さまざまな研究手法を駆使した多くのデータが必要となっています。そのため、個人で実験を進めるスタイルでは通用しなくなってきています。今後は、講座間、大学間の垣根を越えて、多数の研究者と交流して共同研究を進めたいと考えています。当講座のウェブサイト (http://www2.dent.nihon-u.ac.jp/g.physiology/)をご覧いただき、もし私どもとの共同研究にご興味がありましたら、ご一報いただけると幸いです。


第32回(令和2(2020)年度)歯科基礎医学会学会奨励賞 受賞者

笹清人先生

Monocarboxylate transporter-1 promotes osteoblast differentiation via suppression of p53, a negative regulator of osteoblast differentiation
笹 清人 先生
昭和大学歯学部口腔生化学講座

この度は歯科基礎医学会 学会奨励賞を賜りましたことを大変光栄に存じます。

私は、岩手医科大学に在学していた当時より「骨代謝」に興味を持ち、大学卒業後、博士課程より昭和大学歯学部口腔生化学講座の上條教授の研究室の門を叩き、現在に至ります。

私は当講座の大学院に入学以来、一貫して「骨代謝疾患に対しての新規標的因子の発見」というテーマを掲げ研究を行ってきました。その一環として本研究では、カルボキシ基を1つ持つモノカルボン酸(乳酸、ピルビン酸、ケトン体)とプロトン(H+)を細胞内外へ共輸送するモノカルボン酸トランスポーター1(MCT1)が骨基質を形成する骨芽細胞の分化における機能について解析を行いました。MCTはエネルギーに依存せずに濃度勾配などに従い輸送するSolute Carrier(SLC)トランスポーターに属し、現在14種類のサブタイプが同定されています。その中でMCT1は、ほぼすべての組織に発現し、細胞では細胞膜、ミトコンドリア内膜に発現する輸送担体です。このMCT1によるモノカルボン酸の輸送が癌抑制遺伝子として有名であり、骨芽細胞分化抑制因子でもあるp53の遺伝子発現の促進と活性化を介し、骨芽細胞分化を正に制御することを発見しました。MCT1を介した乳酸輸送はこれまで筋肉細胞や神経細胞でエネルギー代謝に関わることが知られていました。しかしながら、骨構成細胞の分化および機能を制御することは新しい発見であり、このMCT1によるモノカルボン酸輸送が、骨代謝疾患における新規標的因子としてMCT1を提唱する根拠になると言えます。現在、「破骨細胞の分化や間葉系幹細胞の分化の振り分け機構におけるMCTの役割の解明」について研究を進めています。今後、より詳細なメカニズムを解析し、臨床応用まで繋げられるように研究を行っていきたいと考えています。

本研究に直接ご指導いただきました当講座の上條竜太郎教授と吉村健太郎講師そして本研究に携わっていただきました多くの先生方と関係者の方々にこの場を借りて厚く御礼申し上げます。


片瀬直樹先生

5-HT2A receptor activation enhances NMDA receptor-mediated glutamate responses through Src kinase in the dendrites of rat jaw-closing motoneurons.
壇辻 昌典 先生
昭和大学歯学部口腔生理学講座

この度は第32回歯科基礎医学会 学会奨励賞を賜りましたことを大変光栄に存じます。

私は大学院時代にインプラント歯科学講座を専攻し、口腔生理学講座で研究を行いました。井上富雄教授の妥協を許さない指導の下、苦労もしましたがそれ以上に研究の楽しさを教えていただきました。次第に研究への興味が強くなり、現在も口腔生理学講座で研究を行っています。

私たちの教室では咀嚼や嚥下を制御する脳のメカニズム解明を目標にし、その中で私はセロトニン(5-HT)と顎運動との関連について研究を行っています。神経伝達物質の一つである5-HTは運動機能を調節することが知られており、顎運動にも関与する可能性があります。本論文は、5-HTが咬筋を支配する咬筋運動ニューロン樹状突起上の5-HT2A受容体を活性化し、細胞内シグナルであるSrcを介してNMDA受容体のサブユニットGluN2Aをリン酸化することで、グルタミン酸応答を増強することを明らかにしました。さらに、高度な空間分解能を有する2光子励起レーザー顕微鏡を用いて,樹状突起の微小領域に誘発されたグルタミン酸応答は,5-HTを近傍に微小投与すると増強しますが、離れた部位の投与では変化がなく,5-HTによるグルタミン酸応答の増強には、グルタミン酸受容体とその近傍の5-HT2A受容体の両方の活性化が必要であることを明らかにしました。この増強効果は閉口筋に広い範囲で発生する張力の調節に関与すると考えられます。しかし、セロトニン神経は脳全体に投射し、その受容体は多くの種類を持つことから5-HTによる顎運動への関連性や役割はまだまだ不明な点が多いです。そこで現在は、光遺伝学を用いてセロトニン神経と咀嚼運動の関連性を明らかにすることを目的に研究を行っています。

最後になりましたが、本研究に際し、ご指導頂きました井上富雄教授、中村史朗先生、中山希世美先生、望月文子先生、ならびに研究協力いただいた先生方に心より感謝申し上げます。


塚崎雅之先生

Three-dimensional ultrastructure of osteocytes assessed by focused ion beam-scanning electron microscopy (FIB-SEM).
長谷川 智香 先生
北海道大学大学院歯学研究院 硬組織発生生物学教室

この度、第32回歯科基礎医学会学会奨励賞という名誉を与えてくださいました歯科基礎医学会 井上富雄理事長、ならびに、本学会に関連する皆様に心よりお礼申し上げます。

私は、母校北海道大学で臨床研修を終了した後、当時本学に着任して間もない網塚憲生教授が主宰された硬組織発生生物学教室にて大学院生活を始めました。「歯科臨床をきちんと行うために問題解決能力を養いたい。そのためには、大学院の4年間は基礎系教室でしっかり研究しよう」と考えて始めたはずが、気が付けば早10年以上が経過し、現在に至ります。

網塚教授の元で、全身/局所リン調節因子の遺伝子改変動物を用いた骨基質石灰化/異所性石灰化メカニズムの解析や、各種骨粗鬆症治療の作用メカニズムに関する解析など、骨代謝・石灰化組織研究を続けてまいりましたが、これら研究は、一貫して顕微解剖学的解析を主体としています。すなわち、従来の光学顕微鏡や透過型電子顕微鏡による解析はもちろんのこと、EPMA/EDXによる元素マッピングや誘導放出抑制顕微鏡などの超解像共焦点顕微鏡解析、理工学領域で用いられる同位体顕微鏡・原子間力顕微鏡の生物試料応用など、観るための解析機器をフル活用し、「生体内の構造を的確に捉え、表現すること」を第一としています。

今回の受賞対象論文は、FIB-SEMという工業系試料の加工や分析に用いられていた解析機器を生物応用するため、最適な試料作成・観察法を確立した上で、骨基質内に局在する骨細胞の複雑な三次元ネットワーク構造を透過型電子顕微鏡レベルの解像度で明らかにしております。近年、骨細胞は、骨代謝調節・維持に重要な役割を担っていることが報告されておりますが、我々の先行研究から、これら骨細胞機能とネットワーク構造には密接な関連があることがわかってきました。骨細胞ネットワークの三次元微細構造解析は、骨細胞機能解明の一助として有用であろうとの思いから行った研究でしたが、今回、このような栄誉ある賞を頂戴いただけるとは思っておらず、大変光栄に感じております。

私を始め当教室員が研究を遂行する上で常日頃大切にしている教えに、網塚教授の恩師、小澤英浩名誉教授から続く「Beauty is truth, truth beauty 真実とは美しいものである」がございます。様々な顕微解析機器を用いて、体の構造を精確に捉えた所見は美しく、それら美しい所見は多くの真実を物語ります。駆け出しの形態学者として、この教えを忘れることなく、今後も精進を続けてまいりたいと思います。

最後になりますが、この場をお借りしてご指導を賜りました網塚憲生教授、ともに切磋琢磨してくださる硬組織発生生物学教室の皆様、そして研究協力を頂いた先生方皆様に心より感謝申し上げます。


塚崎雅之先生

Origin and development of septoclasts in endochondral ossification of mice.
坂東 康彦 先生
明海大学歯学部形態機能生育学講座解剖学分野

このたびは名誉ある歯科基礎医学会学会奨励賞を賜り、光栄に存じます。

受賞論文はseptoclast(セプトクラスト)という細胞の発生と軟骨内骨化における役割について明らかにしたものです。septoclastは先行論文が少なく、未解明の点の多い細胞です。septoclastは長管骨骨端板直下の骨軟骨境界部の毛細血管に隣在し、骨端板の非石灰化軟骨基質を有機質分解酵素により融解し、軟骨小腔を露出させる働きをします。それにより退縮した肥大軟骨細胞が破軟骨細胞(破骨細胞)に吸収されます(Lee et al., J Histochem. Cytochem. 1995)。

私の大学院における学位研究では天野修教授の御指導の下、マウス脛骨骨端板骨軟骨境界部でseptoclastに表皮型脂肪酸結合タンパク(E-FABP)が特異的に発現することを見出し、E-FABPが長鎖脂肪酸の代謝とPPARβ/ẟを介するシグナル伝達に関与することが示唆されました (Bando et al., J. Mol. Hist. 2014)。続いて、septoclastに発現するE-FABPが、レチノイン酸の細胞増殖シグナル伝達にも関与することを見出しました。レチノイン酸過剰マウスにおいてはseptoclastにRARβを介したアポトーシスが誘導され、ビタミンA(レチノイン酸)欠乏マウスにおいてはseptoclast にCD-RAPを介する縮小化と増殖抑制が誘導され、レチノイン酸欠乏/過剰栄養下の長管骨の形態異常とseptoclastの軟骨吸収能の低下の関連が示唆されました(Bando et al., Histochem. Cell Biol. 2017)。

軟骨内骨化では軟骨原基に血管が侵入し軟骨が吸収されそこに一次骨化中心が形成されますが、本研究において、septoclastが原基軟骨の非石灰化基質の吸収に関与していることをE-FABPをseptoclastのマーカーとして用い明らかにしました。また、septoclastは同じ貪食細胞である単球マクロファージや隣接する血管内皮細胞とは由来を異にするということは知られていましたが、その由来は長い間未知でした。本研究において、血管が軟骨原基に侵入する直前にseptoclastが毛細血管周囲の周皮細胞(ペリサイト)から分化することを明らかにしました(受賞論文, Bando et al., Histochem. Cell Biol. 2018)。現在はseptoclastの脂肪酸/レチノイン酸摂取の骨組織における役割と、ペリサイトからseptoclastへの分化機構を明らかにしたいと考え、研究を行っております。

最後になりますが、研究遂行にあたり、学位研究以来直接御指導頂いております天野修明海大学歯学部解剖学分野教授をはじめ、FABP抗体の御供与を頂いております大和田祐二東北大学教授、近藤尚武東北大学名誉教授、井関尚一公立小松大学教授、そのほか多くの先生方より御指導を頂いております。心より感謝申し上げます。

受賞の場を与えて頂きました、井上富雄理事長をはじめ歯科基礎医学会関係者の方々に厚く御礼を申し上げます。今後も歯科基礎医学会に発表の機会を与えて頂ければ幸いに存じます。


第19回(令和元(2019)年度)歯科基礎医学会ライオン学術賞 受賞者

美島健二先生

唾液分泌障害の新規治療法の開発
美島 健二 先生
昭和大学歯学部口腔病態診断科学講座口腔病理学部門

私が唾液腺の再生研究を始めたのは、今から19年前の2001年に遡ります。当時所属していた徳島大学歯学部口腔病理学講座の林良夫前教授から「美島、ES細胞から唾液腺造ってみろよ」という一言がきっかけでした。その頃は日本再生医療学会が立ち上がったばかりで、早速入会し情報を集めようと活動を開始しました。運良く留学先が同じNIHの神田靖士先生(現在、関西医科大学衛生・公衆衛生学講座准教授)が帰国されておられ、 関西医科大学でES細胞の研究を始めたことを耳にしました。そこで、大阪の実家から近かったこともあり、しばらくES細胞の培養方法を修得するためにラボにお邪魔させて頂きました。培養皿上で拍動するES細胞から誘導した心筋細胞を見た時の感動は今でも忘れることができません。そして、足かけ18年、やっとES細胞から3次元的に唾液腺組織を作ることに成功しました。

大学教員として給与を頂いておりますので、教育、診断をおろそかにすることはできません。遅々として研究が進まない時期もありましたが、ずっと一つテーマに執着し小さなデータを蓄積してきた結果なんとか一つのゴールに到達することができたのではと感じております。もちろん、これまでの共同研究者をはじめご指導頂きました先生方や現在のスタッフなくしては得られない成果であり、本当に沢山の良い出会に恵まれたと感じています。

現在はビッグデータ時代であり、一人の研究者がコツコツ実験を進めていてはとても成果をあげることが難しい時代かもしれません。若い先生方は、自身の研究分野内・外関わらず多数の研究者と交流を深め、設定した目標に向かって継続的に研究を進めて頂きたいと期待します。当方も共同研究や大学院生の募集を積極的に行っています。ご興味のある方は当方のホームページをご覧下さい(http://www10.showa-u.ac.jp/~oralpath/index.html)。直接、私宛にメールを頂いても結構です(mishima-k@dent.showa-u.ac.jp)。

最後になりましたが、このような素晴らしい賞を頂き、ライオン株式会社、歯科基礎医学会中村雅典理事長、研究委員会の皆様ならびに関連する皆様には心より御礼申し上げます。


第31回(令和元(2019)年度)歯科基礎医学会学会奨励賞 受賞者

片瀬直樹先生

DKK3 overexpression increases the malignant properties of head and neck squamous cell carcinoma cells.
片瀬 直樹 先生
長崎大学生命医科学域(歯学系)口腔病理学分野

このたびは歯科基礎医学会 学会奨励賞を賜り、たいへん光栄に存じます。長年の目標であったこの賞を受賞でき感無量です。私は岡山大学歯学部の学部生の頃から基礎歯学に惹かれ、口腔病理学分野にお邪魔して病理診断や研究のお話を伺っているうちに、病理学にすっかり魅了されていきました。その後、学部5年生の時に父を癌で亡くしたことをきっかけに癌研究を志し、大学院に入学しました。経済的な問題もある中で、永井教之名誉教授、長塚仁教授の懇篤なるご指導を受け、研究の道に入ることができたことは本当に僥倖であったと思います。改めて感謝申し上げます。

我々は頭頸部癌に特異的な癌関連遺伝子の検索からDKK3遺伝子に着目し研究を行っています。DKK3の属するdickkopf WNT signaling pathway inhibitor familyは分泌型タンパクをコードし、その名の通り細胞の癌化に関わるWnt/β-catenin signalの抑制因子として機能します。DKKタンパクはWnt ligandのco-receptorであるLRP5/6に競合的に結合することでWntシグナルを抑制しますが、DKK3はLRP5/6への結合ができず、その代わりに細胞質内でユビキチンリガーゼのβ-TrCPと結合してβ-cateninの核内移行を阻害してシグナル伝達を抑制します。DKK3は、このWnt抑制作用と種々の癌組織で発現が低下していることから癌抑制遺伝子とされてきました。ところが我々の研究では予想に反して、頭頸部癌ではDKK3発現が高頻度に認められ、DKK3発現群は予後不良となることが示されました。ここから「頭頸部癌ではDKK3が癌遺伝子として機能するのではないか?」との仮説に至り、検証を続けています。

今回の受賞対象論文では、頭頸部癌細胞にDKK3を過剰発現させ、その影響を検討しました。結果からはDKK3過剰発現はAktのリン酸化を増加させ、腫瘍の増殖・浸潤・遊走・腫瘍形成能の全てを有意に増大させることが明らかになりました。また、これに一致してDKK3を安定的にノックダウンするとPI3K/PDK1/Aktのリン酸化低下が見られ、腫瘍細胞の増殖や浸潤が有意に低下することも報告しました。これらの結果は我々の仮説を支持し、DKK3が頭頸部癌の悪性度を規定する因子である可能性が強く示唆されます。現在は、DKK3のAktの活性化に関わる機能ドメインの同定に熱意を持って取り組んでいます。本研究の成果が将来的に頭頸部癌患者を救うことを願います。

最後に、本研究に際しご指導を賜りましたグンデゥズ メーメット先生、辻極 秀次先生、濃野 勉先生、西松 伸一郎先生、ならびに共同研究者の山内 明先生、山村 真弘先生、永野 健一先生、藤田 修一先生に深甚なる謝意を表します。


Neutrophil elastase subverts the immune response by cleaving toll-like receptors and cytokines in pneumococcal pneumonia
土門 久哲 先生
新潟大学大学院医歯学総合研究科

この度は第31回歯科基礎医学会 学会奨励賞を賜りましたことを大変光栄に存じます。

私は大学院生時代、臨床系の講座に所属しており、歯周病の研究を行っていました。その後米国ケンタッキー州のルイビル大学への研究留学を経て、基礎研究に興味を持ったことがきっかけで、現在の所属に異動しました。その後は主に肺炎に関する研究を行っています。

当研究室の研究課題である重症肺炎は、高齢者に多く発症し、年間13万人の死亡者のうち、65歳以上が95%を占めます。高齢者における肺炎の発症原因に口腔細菌の誤嚥が関与することから、歯科領域における肺炎研究も重要であると考えます。

肺炎の主な原因菌である肺炎球菌に感染すると、好中球が肺組織へ浸潤するにも関わらず、肺炎球菌を十分に排除できずに重症化する症例が報告されています。このメカニズムとして、① 肺炎球菌が自己溶菌により菌体内毒素を漏出すること、② 毒素により好中球が傷害を受け、好中球内部からプロテアーゼの一種であるエラスターゼが漏出し、③ 肺組織がエラスターゼにより傷害されて重症化する、という病態進行モデルを明らかにしてきました。受賞論文では、漏出したエラスターゼが宿主の自然免疫応答にも影響を与えるのではないかとの仮説を立てました。通常、免疫細胞は肺炎球菌等の病原体をToll様受容体等で認識し、細胞内シグナルを活性化することで、炎症性サイトカインを産生します。しかしながら、エラスターゼを作用させたマクロファージに肺炎球菌を添加すると、エラスターゼ非作用群と比べて培養上清中のサイトカイン濃度が著しく低下することが判明しました。そのメカニズムとして、エラスターゼがToll様受容体を分解し、細胞内シグナルを抑制することに加え、産生された炎症性サイトカインをも分解することを明らかにしました。現在は、これら成果を基盤として、新たな肺炎治療法の探索研究を行っています。

最後になりますが、本研究を遂行するに当たり、直接指導いただいた寺尾 豊教授(新潟大学大学院医歯学総合研究科)、小田真隆教授(京都薬科大学)、ならびに研究協力いただいた先生方に心より感謝申し上げます。


塚崎雅之先生

Host defense against oral microbiota by bone-damaging T cells.
塚崎 雅之 先生
東京大学大学院医学系研究科免疫学

この度は歯科基礎医学会奨励賞を賜り、大変光栄に感じております。研究の師匠である高柳広先生、多くの共同研究者の方々、そして本受賞にあたり私をご推薦下さいました上條竜太郎先生に心より御礼申し上げます。私は代々歯科開業医の家の長男として生まれ、親の跡を継ぐつもりで歯学部へ入学したのですが、骨代謝研究でご高名な須田立雄先生の影響を受け、基礎研究の道に進みました。歯周病で骨が減る理由に興味を持ち、学部学生時代は上條竜太郎先生ご指導のもと、炎症による骨形成抑制に焦点を当てた研究を行いました(Tsukasaki et al., BBRC 2011, BBRC 2012)。次第に、自分の興味を更に深く追求するためには高柳広先生の下で骨免疫学を学ぶ必要があると考えるようになり、研修医を終えてすぐに高柳研の門を叩きました。

大学院時代には、がん骨転移における破骨細胞形成機構に関する研究(Tsukasaki et al., J Bone Miner Res 2017)と、歯周炎における炎症性骨破壊メカニズムの解析(Tsukasaki et al., Nature Communications 2018)を行いました。後者の論文では、歯周炎に伴う口腔粘膜バリアの破綻に伴い口腔細菌が生体へ侵入すること、これに対し口腔粘膜に常在し本来は免疫寛容を担うFoxp3陽性T細胞が、骨破壊誘導能の高い特殊なTh17細胞へと分化転換することを見出しました。このTh17細胞は、IL-17産生を介して口腔上皮の抗菌プログラムを惹起し細菌を排除すると同時に、破骨細胞による歯槽骨吸収を誘導し感染源である歯の脱落を促すことで、感染および炎症を終息させる「諸刃の剣」として機能することが明らかとなりました。本知見は、免疫細胞と骨構成細胞が協調し、いざとなったら感染経路を断つことで外敵から身を守るという、他のどのバリアにも見られない口腔のユニークな免疫システムに光を当てたと同時に、これまで単なる炎症の有害な副次的効果とされてきた炎症性骨破壊の起源が、口腔細菌に対する原始的な生体防御機構であった可能性を示唆します(Tsukasaki et al., Nature Reviews Immunology 2019)。

現在は、これまで見落とされてきた骨免疫システムの重要な構成要素である「骨膜」に着目した研究、先端技術を駆使した破骨細胞の運命決定機構の解析、骨保護因子による免疫制御機構の解明、そして新たな単一遺伝性疾患の発見とその原因解明を目指した研究などを進めています。また歯科基礎医学会でも発表させて頂けますと幸いです。


第18回(平成30(2018)年度)歯科基礎医学会ライオン学術賞 受賞者

豊田博紀先生

大脳皮質における情報処理機構
豊田 博紀 先生
大阪大学大学院歯学研究科口腔生理学教室

この度はライオン学術賞を賜ることができ、大変光栄に存じます。歯科基礎医学会の役員の先生方および本賞の選考委員の先生方に深く感謝致します。

私はこれまで、大脳皮質における情報処理機構を明らかにする研究に取り組んできました。大脳皮質は明確な機能局在を示し、領野特異的な脳機能を発現していますが、機能カラムを構成する局所回路の動作機構が、領野を問わず普遍的であるか否かについては長年不明でした。我々はラットの体性感覚野バレル皮質と島皮質味覚野という二つのシステムにおいて、機能カラム内およびカラム間の局所神経回路の動作機構が異なる可能性を明らかにしました。また、大脳皮質においてGABA(B)受容体は、興奮性および抑制性ニューロンのシナプス前終末・後膜・外領域の細胞膜に存在していますが、機能カラム間での同期化・脱同期化にどのように影響を与えるかは不明でした。我々は、隣接するカラム間の錐体細胞間の同期化・脱同期化に、GABA(B)受容体を介するシナプス前抑制が重要な役割を果たしていることを明らかしました。これらの結果は、機能カラム間での同期化・脱同期化機構の根源的知見を提供するものであると考えています。

統合概念の形成、短期記憶情報の再現、情動などの高次脳機能は、脳の異なる領域間の機能協関の結果生じると考えられていますが、どのような神経機構により機能協関が生じるかについては、不明な点が多く残されています。我々は光学的膜電位計測法を用いて、島皮質味覚野とその尾側に隣接する島皮質自律機能関連領野の神経活動が、カプサイシンによりシータリズムで同期化することを初めて可視化して示しました。さらに、島皮質味覚野とその尾側に隣接する島皮質胃腸自律領野の神経活動が、内因性カンナビノイドであるアナンダミドの投与によりシータリズムで同期化することを示しました。島皮質で観察されたこうした神経ネットワーク活動は、味覚認知により惹起される摂食行動の制御に重要な役割を果たしているものと考えております。

これらの成果は、感覚情報処理および高次脳機能発現を担う大脳皮質の動作原理を理解する上で非常に重要な知見であると考えられます。現在、脳虚血や慢性疼痛時などの病態時における神経メカニズムを解明し、新たな治療法の開発に繋げることを目指して研究を行っております。これまで研究の遂行に多大なるご協力を頂きました教室員の皆様や共同研究者の先生方に心よりお礼申し上げます。


兼松 隆先生

肥満を制御する新たな分子メカニズムの解明
兼松 隆 先生
広島大学 大学院医歯薬保健学研究科 細胞分子薬理学

肥満は、メタボリックシンドロームの誘因となり、動脈硬化性疾患などの慢性炎症の惹起や病態の増悪に関わる。現在、肥満予防を目的として、食欲や脂肪蓄積を制御するための基礎医学研究が進められているが、未だ多くが謎である。我々は、PLC-related catalytically inactive protein (PRIP)の遺伝子欠損(Prip -KO)マウスを作製し、このマウスが過食であり血中インスリン濃度は高いが痩せた表現型を示すことを見出した。そこで、この表現型の分子機構を解明するために、PRIPを介した脂肪代謝や生体エネルギー代謝の調節機構の解明研究を行った。

まずPrip -KOマウスの膵β細胞が、インスリン分泌過剰を示す分子基盤を明らかにした。しかしながら、Prip -KOマウスはインスリン抵抗性の獲得に対して防護的であることから、PRIPの欠失は糖尿病発症に対抗できると結論づけた。次に、白色脂肪細胞におけるPRIPが仲介する細胞内シグナル伝達機構を解析して、PRIPが脂肪分解に関わる分子の脱リン酸化を調節して脂肪分解を制御するという分子基盤を明らかにした。さらに、PRIPの欠失は、褐色脂肪細胞における非ふるえ熱産生系を活性化して恒常的に生体エネルギー代謝の亢進を起こすこと、また長期寒冷刺激環境下でPrip -KOマウスを飼育すると非ふるえ熱代謝系の亢進が起きることを明らかにした。

我々は、これらの研究成果を通して、PRIPが白色脂肪細胞における脂肪分解と褐色脂肪細胞における非ふるえ熱代謝系を調節するという新しい分子基盤を明らかにした。今後は、PRIPを介した脂肪分解の脱リン酸化調節機構を創薬標的として、脂肪分解と生体エネルギー代謝を活性化する抗肥満薬の開発を目指した研究を推進していく。


第30回(平成30(2018)年度)歯科基礎医学会学会奨励賞 受賞者

浅野智志先生

Suppression of cell migration by phosphoilpase C-related catalytically inactive protein-dependent modulation of PI3K signalling.
浅野 智志 先生
広島大学 大学院医歯薬保健学研究科 細胞分子薬理学

この度は第30回歯科基礎医学会 学会奨励賞を賜りましたことを大変光栄に存じます。これまでご指導頂いた先生方、共同研究者の先生方、及び歯科基礎医学会の先生方に心より御礼申し上げます。

私の研究経歴は、若林健之先生の門をたたいた所から始まります。そこで骨格筋のアクトミオシン系が高度に規則的に整列するサルコメア構造に魅了され、それ以来、細胞骨格、モータータンパク質の研究に携わってまいりました。研究室を出てからは黒田正明先生の研究室を経て、細谷浩史先生の下で細胞生物学を学び、研究テーマが筋肉から、非筋細胞のアクトミオシン系が関わる細胞移動や細胞質分裂などの細胞現象へと変わりました。しかし興味の根幹は変わっておりません。学位取得後は、スフィンゴ脂質を専門とする岡崎俊郎先生の下でポスドク研究員として、脂質の制御する細胞移動の研究に携わり、その後、脂質と細胞骨格の研究を別の角度から学びたいと思い、現在の兼松隆先生の研究室にポスドクとして受け入れていただきました。細胞生物学を研究の基盤とする私にとって歯学の世界は縁遠いものだと思っておりましたが、この研究室では、歯学だから生物学だからといった枠組みに捕らわれず、自由な発想で研究を進めて良いと言っていただき、居心地の良さから気づけば7年以上も在籍し続けておりました。奨励賞を頂いた研究論文はこのような環境の中だからこそ生まれた研究成果だと思っており、感謝しております。

本研究は、癌の転移抑制に関わる新たな分子の発見と、その機能メカニズムを示したものです。我々の研究グループは、この新規分子が、癌の増悪化の原因の1つに挙げられるホスファチジルイノシトール-4,5-二リン酸(PIP2)/ホスファチジルイノシトール-3,4,5-三リン酸(PIP3)シグナルを抑制することを突き止めました。本研究は、乳癌細胞を用いて解析をしておりますが、PIP2/PIP3シグナルは多くの癌細胞で活性化状態にあることから、この分子が口腔癌細胞の転移にも関わっていることが期待できます。今後は、このような新規分子によるPIP2/PIP3シグナルの制御機構を利用した新たな転移抑制薬の開発を目指して研究を進めていく所存です。


[6]-gingerol and [6]-shogaol,active ingredients of the traditional Japanese medicine hangeshashinto,relief oral ulcerative mucositis -induced pain via action on Na+ channels.
人見 涼露 先生
九州歯科大学生理学分野

この度は第30回歯科基礎医学会奨励賞(生理学部門)を賜りましたこと、厚く御礼申し上げます。

本研究に用いた漢方薬の半夏瀉心湯は、がん治療の副作用として発症する広範囲で激痛を伴う口内炎に対する有効性が評価され、口内炎に苦しむ多くの患者に処方されています。本論文では、この半夏瀉心湯の鎮痛メカニズムについて、口内炎モデル動物を用いて解析しました。その結果、半夏瀉心湯を構成する7つの生薬のうち、乾姜という生姜の成分ショーガオールとジンゲロールが、疼痛に関与する電位依存性ナトリウムチャネルを介して鎮痛効果を発揮することが明らかになりました。ショーガオールやジンゲロールは非常に浸透性が悪いのですが、半夏瀉心湯に含まれる浸透性を増強させるニンジン(人参)生薬によって口内炎部でのみその効果を発揮することも分かりました。つまり、うがい薬として使用することの多い半夏瀉心湯の効果は、口腔内全体に広がるものの健常粘膜には作用せず口内炎部のみで鎮痛効果を発揮するという理想的な薬物であることが示されました。半夏瀉心湯を構成する様々な生薬はそれぞれの役割を持ち、お互い補い合って働いていることが分かり、漢方薬の奥深さを目の当たりにしました。

半夏瀉心湯には鎮痛効果以外にも、抗菌、抗炎症、抗酸化効果に加えて創傷治癒促進効果も持つことが最近明らかになっています。さらなる研究により、半夏瀉心湯がより多くの患者の疼痛緩和に役立つことを願います。

最後に、本研究を遂行するにあたり、九州歯科大学生理学分野の小野教授をはじめ、当分野のスタッフおよび大学院生の皆様、株式会社ツムラの皆様には多大なるご支援をいただきました。心より感謝申し上げます。


田中志典先生

Oral CD103-CD11b+ classical dendritic cells present sublingual antigen and induce Foxp3+ regulatory T cells in draining lvmph nodes.
田中 志典 先生
ペンシルベニア大学医学部博士研究員

この度は歯科基礎医学会奨励賞を賜り、大変光栄に存じます。本研究を指導してくださった東北大学大学院歯学研究科菅原俊二教授、福本敏教授をはじめ、教室員の先生方に深く感謝申し上げます。

私は口腔領域の免疫システムに興味を持って研究しており、現在は米国ペンシルバニア大学で博士研究員をしています。

本研究では花粉症などアレルギー疾患の根治療法として注目されている舌下免疫療法のメカニズム解明に取り組みました。口腔粘膜は常在菌や食物由来の外来抗原に常にさらされていますが、これらに対するアレルギーや炎症反応は通常起きません。舌下免疫療法はこの現象を利用して考案されたアレルギーの治療法であり、花粉などの抗原を舌下粘膜から吸収させ、全身に免疫寛容を誘導し症状の改善を図ります。抗ヒスタミン薬などによる対症療法と異なり、体質を改善することによる根治療法ですが、その詳細なメカニズムは分かっていませんでした。一般に、抗原に対する免疫寛容の成立には制御性T細胞の誘導が重要です。制御性T細胞は免疫反応の抑制を司るT細胞です。そこで、マウス口腔粘膜の抗原提示細胞について詳細な解析を行ったところ、口腔粘膜の樹状細胞がTGF-およびレチノイン酸依存性に制御性T細胞を誘導する能力を有することが分かりました。さらに、口腔粘膜の樹状細胞が舌下投与された抗原を顎下リンパ節に運搬し、そこで抗原特異的制御性T細胞を誘導することも明らかとなりました。これまで、舌下免疫療法は花粉症などのアレルギー性鼻炎や喘息に有効であることが示されていました。しかし、舌下免疫療法により抗原特異的制御性T細胞が誘導されるのであれば、他のアレルギー疾患の抑制にも有効である可能性があります。この点について検討したところ、舌下免疫療法は遅延型アレルギーの抑制にも有効であることが示されました。さらに、舌下免疫療法を施したマウスの顎下リンパ節から制御性T細胞を単離し、舌下免疫療法を行っていない別のマウスに移入したところ、そのマウスでも遅延型アレルギーの発症が抑制されることが分かりました。

これらの実験により、舌下免疫療法によって顎下リンパ節に誘導された制御性T細胞が実際にアレルギーを抑制する機能をもつことが証明されました。本研究成果は、舌下免疫療法の適応拡大や、治療効果を高める方法の開発につながることが期待されます。


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