受賞者の声

第17回(平成29(2017)年度)歯科基礎医学会ライオン学術賞 受賞者

島皮質における口腔顔面感覚の制御機構の解明
小林 真之 先生
日本大学歯学部薬理学講座

島皮質には顎顔面口腔領域および内臓における多様な感覚情報が収束する。その部位局在性および当該領野の局所回路の特性は,各種感覚情報を高次脳で統合するメカニズムを考える上で極めて重要であるが,詳細な解析はなされておらず不明な点が多く残されている。そこで我々は,島皮質における情報処理メカニズムについて巨視的および微視的視点双方から基礎的研究を行ってきた。巨視的視点からは,島皮質の神経活動を広範な視野で観察できる in vivo 標本の作製法を確立し,光学計測法を導入して口腔内の味覚、触圧覚や痛覚,歯根膜感覚,筋感覚などが投射する様式を解明した。一方,微視的視点においては,遺伝子改変ラットの島皮質脳スライス標本を用いて多チャンネル同時ホールセル・パッチクランプ記録法を適用し,口腔感覚情報が投射する領域の局所神経回路の特性および全身麻酔薬をはじめとする薬物による神経回路の修飾機構について明らかにしてきた。これら基礎研究の蓄積によって,島皮質では極めて近接した領域で異なる感覚情報が処理されており,その領域間で生じる興奮伝播は可塑性に富むことが明らかとなってきた。すなわち島皮質では,他の感覚皮質と異なる独自の神経メカニズムで感覚情報を処理していると考えられる。したがって島皮質における神経回路の改変は,口腔機能に関連する様々な病態を惹き起こすと考えられる。そこで現在「歯科疾患が島皮質における感覚情報処理機構を破綻させる機序を解明し,エビデンスに基づいた治療法を開発する」ことを最終目的として,病態モデル動物の作製とその解析に取り組んでいる。これらの研究成果は,病態の神経機構を明らかにして歯科医療にエビデンスを与えると同時に,そのメカニズムの一部を阻害して症状の発現を抑制する新たな治療法を呈示すると期待される。


第29回(平成29(2017)年度)歯科基礎医学会 学会奨励賞 受賞者

TGF-β1 autocrine signalling and enamel matrix components
小林 冴子 先生
鶴見大学歯学部小児歯科学講座

歯科基礎医学会奨励賞受賞に寄せて

この度は第29回歯科基礎医学会奨励賞(生化学部門)を賜り身に余る光栄です。また第59回歯科基礎医学会学術大会においては受賞に際しまして、素晴らしい会場での講演の機会をいただくとともに、授賞式を執り行って頂き、誠にありがとうございました。

本研究では正常なエナメル質形成過程において重要な生理活性物質のひとつであるトランスフォーミング成長因子ベータ1(TGF-β1)のオートクリン機構を報告致しました。形成途中のブタ幼若エナメル質を用いた検討において、TGF-β1の動態を遺伝子レベル及びタンパク質レベルの両方で解明すると共に、様々なエナメルタンパク質とのインタラクションが存在することがわかりました。特にこれまで不明確であったアメロゲニンとTGF-β1の関係について、活性を維持するために結合している可能性を提示出来たことにこの研究の意義と面白さを見出しています。

わたしは小児歯科学講座に所属し、子どもたちの歯科治療に従事しております。その中でもエナメル質形成不全は比較的日常的に起こりうるトラブルであると臨床の現場からも実感しています。しかし、その素因については未だ不明な点も多く、基礎研究において正常なエナメル質形成のメカニズムを追究することには全人類的価値があると感じています。また今回注目したブタ幼若エナメル質は失われた歯周組織を再生させるための材料としてすでに臨床応用されています。この成分中に含まれる生理活性物質をタンパク質、分子レベルで解明することができれば、さらなる発展的材料の開発や、歯周組織に留まらない近未来における歯牙硬組織再生医療への足掛かりになると期待しています。

将来、子どもたちの歯を削ることがない未来を創造できることが私の目標です。今後もこの受賞を励みに真摯に、また謙虚に基礎研究に邁進してまいります。末尾となりましたが、本研究の遂行に多大なご協力をいただきました鶴見大学歯学部分子生化学講座のスタッフに心より御礼申し上げます。


Evolutionary inactivation of a sialidase in group B Streptococcus
山口 雅也 先生
大阪大学大学院歯学研究科口腔細菌学教室

この度、私たちの研究論文「Evolutionary inactivation of a sialidase in group B Streptococcus」に対し、第29回歯科基礎医学会 学会奨励賞を賜りましたこと、深く感謝しております。

私が所属している大阪大学 大学院歯学研究科 口腔細菌学教室では、主に病原性レンサ球菌が感染を成立させるメカニズムについて、多面的な解析を行っています。今回の研究では、細菌性髄膜炎の主な原因となる、Streptococcus pneumoniae (肺炎球菌) とStreptococcus agalactiaeに着目しました。肺炎球菌において、菌のシアル酸分解酵素が中枢神経系への侵入因子として働くことが知られています。S. agalactiaeは、肺炎球菌のシアル酸分解酵素NanAと相同性の高い分子を持つ一方で、自身を覆う莢膜多糖をシアル酸で修飾し、宿主の免疫を回避することが知られています。そこで、遺伝子情報を元にした進化解析と遺伝子変異株を用いた分子生物学的解析を行いました。その結果、S. agalactiaeのシアル酸分解酵素様分子NonAは、進化過程において機能を失っていることが明らかになりました。また、S. agalactiaeにおいては、活性型のシアル酸分解酵素によって得られる利益よりも、自身をシアル酸で修飾する利益の方が大きいことが示されました。すなわち、肺炎球菌とS. agalactiaeは、同じ細菌性髄膜炎を引き起こす類縁のレンサ球菌であるにも関わらず、一方はシアル酸分解酵素を武器として、もう一方はシアル酸による修飾を盾として用いるという正反対の進化を経たことが示唆されました。今回の研究によって、同じ感染症でも原因菌が異なることで、その発症機序が大きく異なる可能性が示されました。今後は、今回用いた分子進化解析の手法を応用し、レンサ球菌の病原因子の解明を行って行きたいと思っています。

最後に、本研究を遂行するにあたり、多大なるご支援をいただきました川端重忠教授をはじめ、共同研究者の先生がたに厚く御礼申し上げます。


Possible Involvement of Palmitate in Pathogenesis of Periodontitis
四釜 洋介 先生
国立長寿医療研究センター口腔疾患研究部口腔感染制御研究室

研究テーマ
糖脂質代謝異常、顎顔面領域疾患、および老化・加齢変化という3つのキーワードを軸にそれぞれの疾患、変化に対する関連性を細胞やマウスを用い、分子生物学的手法で明らかにして行こうと考えています。また、その実験結果を踏まえ、上記疾患の予防・治療法の開発も積極的に行って行く予定です。口腔領域のターゲットにしている組織は、主に唾液腺および歯周組織です。

現在、口腔疾患研究部松下健二部長の下、博士研究員1名と共に研究を行っております。まだまだ小さな研究室ですが、健康寿命延伸に対する口腔機能の重要性を細胞および疾患モデル動物を用い明らかにし、その臨床応用を見据え日々研究に励んでおります。

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